個人事業者として、開業した事業が軌道に乗ってくると、節税や社会的信用度向上など様々なメリットを得るために、法人化を検討する場合があります。
個人事業主から法人成りするとき、建設業許可を受ける方法には以下の2種類あります。

①法人で許可を取り直す(個人を廃業して、法人で新規許可取得)
②法人に許可を承継する方法
ここでは、②の法人に許可を承継する方法を解説します。

法人化するメリットと注意点

法人化のメリット

税制に関して

法人化の最大のメリットは、節税であり、個人事業者は、個人の所得に対して所得税が課税され、最高税率は45%にも達します。一方、法人は、所得税ではなく法人税が課され、法人税率は15~20%台程度となります。
そして、法人の経営者は、法人の収益から給与を受け取るため、法人と事業主個人とに所得を分散し、それぞれの税率を抑えることができ、給与所得に給与所得控除を適用することができます。

社会的な信用度の向上

法人は、会社法や会計法など関連する規則に従って運営し、取締役会や組織的に事業を運営することで、事業主個人のみに依存しない事業運営となりため、取引先の信頼度は上がります。取引相手が法人であることを取引の条件としている企業もあります。

また、法人の事業で生じた債務はその法人が返済責任を負い、法人の経営者であっても、法人事業で発生した債務は、出資した金額の範囲で賠償責任(有限責任)を負います。

法人化の注意点

法人設立の労力と費用が必要

個人事業を開業する場合、個人事業の開業届を税務署と都道府県に提出するだけで済み、手続きには費用はかかりません。

一方、法人設立には、定款作成と証人役場で認証を受け、法務局での法人の設立登記を行う必要があり、定款認証手数料や登録免許税などの費用がかかります。

社会保険の加入(保険料負担)

個人事業者は、従業員が5人未満であれば、社会保険への加入は義務付けられていません。
法人は、従業員の人数によらず、社会保険(健康保険・厚生年金保険など)への加入義務があり、法人が社会保険料の半分を負担する必要があります。

赤字でも課税される

所得がない場合に税金はかからない個人事業者に対して、法人は、利益がなくても法人住民税(均等割)年間7万円が課税されます。ただし、法人の方がが、税制面でのメリット大きい場合もあります。

法人の運営に労力を要する

株式会社の場合では、毎年度株主総会を開催する必要があり、取締役会を設置している場合は、最低3ヶ月に1回以上の頻度で取締役会を開催する義務があり、その運営を行わなければなりません。

法人成りで建設業許可を承継する(認可)要件

許可承継のメリット

個人事業主の建設業廃業と法人の新規許可取得する方法と比べて、許可を引き継ぐという点でいくつかのメリットがあります。

  • 無許可期間がない
  • 許可番号が引き継がれる
  • 新規申請手数料の9万円が不要(認可について手数料はなし)

許可を承継することになるため、許可番号に変更はなく、1ヶ月程度発生する無許可期間もありません。

承継(認可)の要件

事業承継をするために、満たさなければならない要件がいくつかあります。

  1. 承継の効力発生日前日までに認可を受けること
  2. 建設業の全部を法人に承継すること
  3. 法人でも許可の要件を満たしていること

建設業許可を承継する際は、上記の要件を満たさなければなりません。

承継の効力発生日前日までに認可を受けること

個人事業主から法人への承継の事実が発生する前に、認可を受けることになります。
事業承継する事実の発生後には認可を受けることができません。
大阪府知事許可の場合、事業承継の効力発生日から30日前までに認可申請を提出しなければなりません。

建設業の全部を法人に承継させること

個人で営んていた建設業については、全て法人に承継させる必要があります。

例えば、個人で土木工事と造園工事を営んでいた場合は、法人にはこの2つを承継させる必要があります。「法人化してからは土木工事だけやるから」といって、造園工事は承継しないということはできません。

一部の工事業種だけを承継する場合は、認可申請の前に一部廃業し、残ったもの全てを承継することになります。

法人でも許可の要件を満たしていること

承継先となる法人でも、以下のように建設業許可の要件を満たしている必要があります。

  • 適正な経営体制(経営業務の管理責任者がいること)
  • 適切な社会保険に加入していること
  • 専任技術者がいること
  • 財産的基礎・金銭的信用を有すること
  • 欠格要件等に該当しないこと
  • 建設業の営業を行う営業所を有すること

建設業許可を持つ個人事業主が、毎年の決算変更届や必要な変更届を提出していて、法人化した会社の代表取締役に就任する場合は、上記の要件を満たすことは比較的容易です。
個人事業者で許可申請した時の申請書類一式(新規、更新)や変更届、毎年の決算変更届の副本が保管していあるか確認しましょう。

承継に必要な書類

提出書類

閲覧書類

順番様式書類の名称
表紙表紙1建設業認可申請書(本体)
1第22号の5譲渡及び譲受認可申請書
2別紙1役員等の一覧表
3別紙2営業所一覧表(新規許可等)
6別紙3専任技術者一覧表
7第2号工事経歴書
8第3号直近3年の各事業年度における工事施工金額
9第4号使用人数
10第6号誓約書
11第7号の3健康保険等の加入状況
12第11号建設業法施行令第3条に規定する使用人の一覧表
13第15号~第17号の3財務諸表(貸借対照表等)
14定款
15第20号営業の沿革
16第20号の2所属建設業者団体
17第20号の3主要取引先金融機関

非閲覧書類

順番様式書類の名称
表紙表紙2建設業認可申請書類の表紙(閲覧不可様式集)
1第7号
又は、第7号の2
常勤役員等(経営業務の管理責任者等)証明書
又は、常勤役員等及び常勤役員等を直接に補佐する者の証明書
2第7号別紙
又は、第7号の2別紙
常勤役員等の略歴書
又は、常勤役員等及び常勤役員等を直接に補佐する者の略歴書
3健康保険・厚生年金保険・雇用保険の加入確認書類の写し
4第8号専任技術者証明書
5国家資格を証する書面または、監理技術者資格証の写し(該当がある場合)
卒業証明書の原本または、卒業証書の写し(該当がある場合)
6第9号実務経験証明書(該当がある場合)
7第10号指導監督的実務経験証明書(特定許可・該当がある場合)
8第12号許可申請者の調書
9第13号令3条使用人に関する調書(該当がある場合)
10・後見登記等に関する登記事項証明書
・市町村の長の発行する証明書(後見・破産)、外国籍の者は、住民票
11第14号株主(出資者)調書
12商業登記簿謄本(法人・支配人)
13納税証明書(府税事務所発行分)
14第22号の6健康保険等の加入状況及びその確認資料の提出に関する誓約書
(申請時に「第7号の3(健康保険等の加入状況)」がすべて記載できない場合や
確認書類が提出不可の場合)
15承継方法確認書類(契約書等)及び意思決定確認書類
譲渡契約書、株主総会議事録等
161号営業所概要書

提示書類

順番確認要件
1法人の経営業務の管理責任者、専任技術者などの常勤性確認
2常勤役員等の経営経験の確認
3専任技術者の確認
4財産的基礎の確認

経営業務の管理責任者、専任技術者の経験証明書類

経営業務の管理責任者の経営経験の確認書類

建設業法人の役員が経営業務の管理責任者になるために、建設業の経営経験があることを証明するには、証明する経験の期間について、下記の書類を提示し、①②③が重なる期間に経営経験があることを証明する必要があります。
①法人税の確定申告書と決算報告書(5年以上)
②工事内容・工事期間・請負金額が確認できる契約書・注文書・請求書等(5年以上)
③商業登記簿謄本・閉鎖謄本

ところが、建設業の許可を受けていた個人事業主が、設立した法人で経営業務の管理責任者になるので、その者の経営経験を確認するための書類は、下記の許可申請書の副本が利用できます。
■建設業許可申請書又は変更届
 ・受付印のある表紙
 ・常勤役員等(経営業務の管理責任者等)証明書(様式第7号)(大阪府職員の青字書きがあるもの)

専任技術者の実務経験の確認書類

実務経験によって専任技術者になるために、申請する工事業種の実務経験がを確認あることを証明するには、証明する経験の期間について、下記の書類を提示し、①②が重なる期間に実務経験があることを証明する必要があります。
①工期・工事名・工事内容・請負金額が確認できる契約書・注文書・請求書・内訳書等
②実務経験期間の在籍が確認できる被保険者記録照会回答票等

ところが、建設業の許可を受けていた個人事業主が、設立した法人で専任技術者になるので、その者の実務経験を確認するための書類は、下記の許可申請書の副本が利用できます。
■建設業許可申請書又は変更届
・受付印のある表紙
・実務経験証明書(様式第9号)(大阪府職員の青字書きがあるもの)

法人成り許可承継する際の注意点

事前に許可行政庁と打ち合わせ

個人から法人へ許可を承継する方法の場合、一般的には許可行政庁との打ち合わせが必要です。

大阪府の場合、事業承継の事実発生日の2カ月前を目途に相談するよう手引きに記載されています。

個人から法人成りして、許可を承継する場合に特有の必要書類や要件もあるため、手続きの進め方について事前にしっかりと確認しておく必要があります。

社会保険の加入は、法人設立日に

建設業認可申請する上で、法人設立の手続きの中で、注意しなければならないのが、以下の2点です。

①定款と法人登記に記載する事業目的の内容(「建設業」を記載すること)
②法人設立日に社会保険に加入すること

特に②の社会保険加入日に注意しなければならい理由と手続きは次のようになります。

法人成りの場合、法人の経営業務の管理責任者や専任技術者は、個人事業主がなることがほとんどです。
法人設立後の常勤性確認書類の提示が必要で、法人設立日以降は、法人としての社会保険に加入していなければなりません。
そして、法人設立日まで個人事業における常勤性を維持しなければいけません。

認可申請する際、経営業務管理責任者や専任技術者の常勤性の確認書類として、健康保険被保険者証と健康保険被保険者標準報酬決定通知書を提示することが一般的です。

実務上、社会保険加入手続き後、健康保険被保険者証と健康保険被保険者標準報酬決定通知書が発行されるまで1カ月近く要する場合があります。その場合は、常勤性の確認書類として、受付印のある資格取得届を提出することで、申請可能です。
ただし、健康保険被保険者証と健康保険被保険者標準報酬決定通知書が発行次第、速やかにその写しを提出しなければなりません。

建設国保に継続加入する時

建設国保などに加入している個人事業主が、法人成り(または、従業員が5人以上)の場合、必要な手続きを行うことにより、協会けんぽい加入せず、建設国保などを継続加入することができます。

この場合、建設国保等の組合に「健康保険被保険者適用除外承認」を申請し、建設国保等の組合が証明した「適用除外申請書」を年金事務所に提出することで得られる「健康保険被保険者適用除外承認証(写し)」を許可申請時に提出する必要があります。